肩の痛みの原因かもしれない、上位交差症候群。

さてさて、前回の下位交差症候群に引き続き上位交差症候群をテーマにしたいと思います。
下位交差症候群は、骨盤を中心とした筋力のアンバランスによる姿勢の変化と、それに付随して起こる諸症状って感じでしたが上位だとどうなんでしょうか?
骨盤のような明らかに動きの中心になる大きな骨が首、肩周りにはありませんがどこらへんを中心とするのか気になるところ。

で、前回のBLOGのため色々調べていたら言い出しっぺのジャンダ先生の考え方や生き方が良くて良くて。
彼のストーリーをご紹介します。

交差症候群を提唱したのは「チェコのリハビリテーションの父」と言われたウラジミール・ジャンダ博士。
1928年に生まれて2002年に亡くなりました。

このジャンダ先生、15歳の時にポリオに感染してしまい、四肢麻痺で2年間歩くことができなかったそうです。後に歩行機能は回復しましたが、ポリオの後遺症の影響で死ぬまで歩行器は手放せなかったとか。

ポリオは5歳以下で感染することが多いので、15歳での感染は珍しいこと。
もう物心がついている時期だと思うので、四肢麻痺で手足が動かなくなり「出来ていたことが出来なくなる」ことは相当なストレスだったことが推察されます。

その後、ジャンダ先生は医師としての道を歩み始めます。
理学療法士の資格をとったり、筋肉活動の研究をしたり、ポリオ後遺症のリハビリセンターで働いたりしていたそうですが、どんな気持ちでその道を選んだのでしょうか。
自分の症状の改善を目指していた?
自分と同じような症状の患者を減らしたかった?
自分の治療をしてくれた医師に憧れて同じ道を志した?
色々と想像が捗るところです。

ジャンダ先生の興味は筋肉や筋肉を動かす神経に傾倒していて、筋肉ジャンルで多数の論文を発表しています。
一つの筋肉が発火するときに他の筋肉が補助的に発火することや、筋力強化トレーニングよりも感覚受容器のトレーニングがリハビリテーションには有効であることなど様々な研究を発表しました。

そして1979年。
それまでの集大成として定義されたのが交差症候群です。
交差症候群は上位交差症候群、下位交差症候群、層状交差症候群の3つに大別されます。
筋力の強さよりも使い方の上手さに注目した、当時としては画期的な考え方でした。

で、今回のテーマはそのうちの一つ、上位交差症候群。

ん~~~背景で味付けすると学ぶモチベーションが上がりますね。
調べて行きたいと思います。

上位交差症候群とは

上位交差症候群は近位交差症候群、または肩甲帯交差症候群とも呼ばれるそう。
緊張し過ぎてしまうグループ首の後ろ側にある後頭下筋群、僧帽筋上部、肩甲挙筋のグループと前胸部大胸筋、小胸筋グループ。筋力が弱化してしまうグループ首の前側深頸屈筋と、背中にある僧帽筋中部、下部
下位交差症候群では骨盤周りに関節機能障害が出ていましたが、上位の場合は環椎後頭関節、C4-5、頸胸椎関節、T4-5に関節機能障害が出ますよと。
背骨の生理的カーブの端と頂点で障害が起こる感じですね。
下の図の黄色いとこが障害の出るところです。
ここらへんは構造的にも機能的にもストレスがかかりやすい箇所です。

で、伴って起こる姿勢の変化は頭部前方移動頚椎上部過伸展による肩の挙上、肩甲骨の外転、場合によっては翼状突出胸椎後弯の増加など。

上位交差症候群はストレートネックと猫背と巻き肩に同時になりますよってことです。

これらが個別の原因で症状が表れるのではなく、筋肉の緊張や弱化を原因とした一連のパターンとして表れるって考え方です。

ここらへんは全てデスクワークが原因で起こりやすいことですし、全部セットで考えちゃっても大まかには良さそう。
背中はまっすぐで肩も開いているのにストレートネックだけ顕著に出ているとかは何か特殊な身体の使い方、例えばバレエをやっている方はこういう姿勢になってたりするので、患者さんの置かれている環境をきくことは大切ですね。

で、さらにこの筋力のアンバランスは機能的なもの病的なものに分けられるそうです。

機能的なものは、普段の身体の使い方で生じる筋力や柔軟性のアンバランスで、非外傷性で痛みを伴わないものです。使い方のクセによって生じる身体の構造的な変化、俗に言う歪みってやつですかね。
腱の炎症や慢性的な関節炎などの原因になることもあります。

病的なものは筋力のアンバランスが機能を損なってしまった場合のことを言うそうです。
これは外傷が原因の場合もそうでない場合も考えられるが、痛みや機能障害を伴うとされています。
機能的なアンバランスが原因の歪みのせいで実際に痛みや機能障害が出てしまった状態って感じです。

ケガをかばってバランスを崩すこともあれば、アンバランスが原因でケガをすることもあります。
ケガの治療中に他の箇所に痛みがでたり、ケガの本当の原因が他の箇所の可動域制限だったり、身体の使い方の変化を考えて本当の原因がどこにあるのか判断する必要があります。

感想

印象としては骨盤という大きな骨がない分、下位交差症候群よりも姿勢変化の理解が複雑で難しいです。
頚椎、胸椎の湾曲の増加や減少には多数の筋肉が関わるので、どういう動きが症状の改善につながるか、伝え方には工夫が必要そう。
とはいえ、ストレートネックやらの原因に首の前側と背中の下部の筋力の弱化が関係するのは面白いです。
姿勢の変化と頸部、胸部の緊張の解消は気にしてましたが、筋力の弱化も原因とするならばまた違うアプローチも考えられて良いですね。
関連する研究も多数されているようなので、共有したいことが見つかったらまたBLOGにしたいと思います!

Page P, Frank CC, Lardner R. Assessment and treatment of muscle imbalance: The Janda Approach 2010, Champaign, IL: Human Kinetics.