体幹が強いとは?体幹を鍛える方法。続き。

前回のまとめ

  • 体幹を鍛えると色々と良いらしい。
  • 体幹は両腕、両脚、頭を切り落とした部分。つまり胴体。
  • 胴体の中でも腹横筋を鍛えると強いっぽい。
  • 代表的な腹横筋トレーニングはドローイン、プランク。体幹を固めるトレーニング。
  • 鍛えたけど効果があるか無いかは人による。
  • いわゆる「体幹の強さ」は体幹の筋力の強さだけの話ではないかもしれない。

ということを解説しました。

体幹ではないところの状態で、体幹の安定性が変わるっぽい。
どうやら、体幹の強さ=体幹の筋力の強さだけでは無さそうだぞ、と。

そもそも「体幹が強い」とはどういう状態でしょうか?

よくテレビのスポーツ中継で、解説者が「この選手は体幹が強いですねぇ〜!」などと解説していることがあります。

例えばサッカーで、スライディングを受けて転倒しそうになりながらも体勢をうまく立て直しドリブルで切り抜けたとき。

例えばゴルフで、小柄な選手が長いドライバーを軸をブレさせずに振り抜き、綺麗なショットを放ったとき。

スポーツとはちょっと違うけれども、ヨガの先生が不安定そうなポーズを凛とした姿勢で小揺るぎもせずビシッと決めているのも体幹が強いと評されます。

この3つ、同じ「体幹が強い」でも動きの内容は全く異なります。

  • 転びそうで転ばなかった。
  • 重いものを姿勢を崩さず振り回した。
  • 安定して微動だにしなかった。

「体幹が強い」とはどういう状態でしょうか。

重心とバランス

ペンを一本渡され、「これを指一本で支えてください。」と言われたら目や指で測って、お尻から先端までのちょうど中心になるところを探すと思います。
同じように長方形の板を渡されたら、タテヨコナナメのちょうど中心になるところを探すと思います。
指一本で支えられる箇所を見つけられたらそこが重心です。
ペンの中心でバランスが釣り合うのは、中心からお尻までと中心から先端までが同じ質量になり、かかる重力を互いに打ち消し合うからです。
重心は前後、左右、上下全ての方向で相対する方向にかかる重力を打ち消し合う点です。
もちろん人間にも重心はあります。
第二仙椎の前方が人間の重心です。
へそのちょっと下辺りにあって、日本武道の経験者なら丹田という呼び方を聞いたことがあるかもしれません。

人間がバランスを取るときに、この重心が深く関わってきます。
例えばまっすぐ立っているときにバランスが安定し、身体を静止させられる条件は、「両足のつま先とかかとが成す四角形の内に、重心の垂直軸が収まっていること」です。
このつま先とかかとが成す四角形のことを支持基底といいます。

重心の垂直軸が支持基底からはみ出した場合、人間はバランスを崩してコケます。

例えば直立状態から前へ倣えをするように両腕を前にあげると前によろけそうになったり、つま先にかかる圧が強くなったりすると思います。
これは腕を前にあげた分、身体の各パーツの質量の中心である重心が前にずれたからです。
上を見上げて頭部を後ろにずらしたり、腰を引いたりして後ろ側の質量を増やすとまた安定するかと思います。
このように、人間は身体の各パーツを動かしたり、足を動かして支持基底の位置を変えたりしてバランスを安定させ、身体を静止させています。

床に立っている時に重心が地面を押すのと同等の力が地面から反力として作用しています。
これを床反力といいます。
身体を安定して静止させるためには、重心と床反力が支持基底の中で釣り合っていることが必要になります。

重心はこのように安定しますが、人間が動くときにはこの安定を崩さなければ動けません。
安定=静止、不安定=動いてる、です。
歩く時は足を交互に動かし、支持基底を前方に移動させながら重心を移動させます。
椅子に座っている状態から立ち上がる場合は、お尻を介して椅子の脚が支持基底になっている状態から重い頭部を前に動かすことをきっかけにして、支持基底を自分の脚に変更します。

重心についてまとめます。

  • 前後、左右、上下全ての方向で相対する方向にかかる重力を打ち消し合う点が重心。人間の重心はおへその下辺り。
  • バランスが安定している条件は、支持基底の中で、重心と床反力が釣り合っていること。
  • 移動したり動くときは安定を崩さなければいけない。

実際の動きの中での重心

重心とバランスの安定について長々と書きましたがこれを踏まえて体幹の強さについて考えてみましょう。

まず人間の重心ですが、第二仙椎前方にあるのは内臓なので直接鍛えることはできません
どこを鍛えるのが効果的かというと、内臓が収まっている腹腔の周りをぐるっと囲んでいる腹横筋です。
腹横筋が収縮すると腹腔をギュッとコンパクトにまとめるので体幹が安定すると言われています。
これが腹横筋を鍛えるといいと言われる所以ですね。

次に「体幹が強い」と言われそうな動きを重心を踏まえて考えてみます。

「サッカーで、スライディングを受けて転倒しそうになりながらも体勢をうまく立て直しドリブルで切り抜けた」場合、色々なシチュエーションが考えられると思います。
単純に体重が重くて重心がブレにくいとか、タックルされて右に傾いた重心を左手を上げたり、身体を捻ったりして上手く支持基底の中に戻したとか、あわや転倒しそうな場面で一瞬だけ地面に手をついて、一時的に支持基底を広げ重心を立て直したとか。
もともとドリブル中という重心が不安定な状態なので、色々な方法が考えられます。

「ゴルフで、小柄な選手が長いドライバーを軸をブレさせずに振り抜き、綺麗なショットを放った」場合は、クラブを持った両腕を勢いよく振り抜くという大きな質量の移動が起こったのに、重心軸が支持基底の中でブレなかった状態と言い換えられます。
下半身、特に股関節周りの臀筋の強さが伺えます。

「ヨガの先生が不安定そうなポーズを凛とした姿勢で小揺るぎもせずビシッと決めている」のはシンプルに腹横筋を含む体幹筋のコントロールがうまそうです。
ヨガのポーズは色々ありますが、片足立ちなどの支持基底を狭くするものか、大きく反って体幹筋が働き難い状態のポーズが多いイメージです。
小さい支持基底の中に重心軸を留めたり、解剖学的に体幹筋に不利な状態で身体を静止させるのは、繊細な重心のコントロールが必要です。

体幹の強さと重心のコントロール

体幹が強く見える動きは体幹筋はもちろん、体幹以外の動きや姿勢も関係してそうな感じです。
重心を体幹筋でコントロールしたり、重心の動揺に有利になる支持基底を成すための足運びや、重心軸が支持基底からはみ出さないように両腕や胴体の位置で重心の辻褄を合わせたり。
ありとあらゆる手段を使って重心軸を支持基底内に留めています。

体幹の強さ=重心の管理能力と考えるとドローインやプランクなどの体幹を固めるトレーニングだけでは「体幹が強い」状態を作るには足りなそうです。
ある程度動きながら体幹をコントロールするトレーニングも必要そう。
代表的なものを紹介します。

継足歩行

  • 板の間や陸上競技のトラックなど、地面に直線が引かれている場所でやる。
  • 左右どちらかの足のかかと、つま先を直線に合わせる。
  • 反対の足のかかとを先足のつま先にぴったりくっつけた状態で、直線にまっすぐ合わせる。
  • これを左右くりかえす。

支持基底を可能な限り小さくした歩行練習です。
動的な体幹トレーニングとしては一番お手軽だと思います。

最初は意外と難しいですが慣れてくると勢いでできてしまうかもしれません。
そんなときは3歩進んで2歩戻る、4歩進んで3歩戻る、5歩進んで4歩戻る・・・というように歩行パターンに変化をつけたり、前進中は両腕を右の真横に、後退中は両腕を左の真横に伸ばすなど身体のパーツを動かして重心の位置を変えたり、九九を暗唱する、歌詞を見ずに歌を歌うなど脳のリソースを他のことで消費して無意識下で重心をコントロールする練習をする、などトレーニング強度を上げてあげても良いと思います。

電車に乗る機会があったら、このトレーニングも試してみてください。

  • 電車の進行方向に向かって立つ。
  • 足を肩幅に開く。
  • 吊り革、手すりは使わない。
  • ひたすら揺れに耐える。

これ、何が良いって受動的トレーニングなんですよね。
継足歩行やドローイン、プランクは身体を能動的に使わないとトレーニングになりません。
このトレーニングは、いつもの電車で手すり、吊り革を使わない’だけ’で体幹を鍛えられます
電車通勤、通学の方は通勤時間にやればいいのでルーティン化しやすいのも良いですね。

こういう動的な体幹トレーニングは実際のスポーツや日常生活の動きに近いため、より実践的な体幹の使い方を学べるかと思います。
だからといってドローインやプランクなどの体幹を固定する系のトレーニングが全く無意味ということは無く、動的トレーニングをする前に少なくとも腹横筋の発火を自分でコントロールできるくらいまではできると、より効果的に動的トレーニングを行えると思います。

2つ汎用的なトレーニングを上げましたが、もしスポーツ競技のために体幹を上手く使えるようになりたいのならば競技ごとの特性に合わせた、より実践的なトレーニングも併せて行えると効果的かと思います。
例えば同じ格闘技でもボクシングは細かくステップを踏んで重心をどの方向にも移動させやすいように不安定にしておくのに対し、剣道ではベタ足、すり足で重心を動揺の少ない安定した状態から発声や踏み込みをきっかけに一息で前方に重心を移動させます。
競技によって体幹の上手い使い方はかなり違うので適したトレーニングを選択する必要があると思います。

体幹を鍛えるのに大切なこと

体幹トレーニングはまだまだ発展途上で、どこまでを体幹に含むか?何をもってトレーニングの効果があったと見なすか?などが考え方によってまちまちで定番といえるものがあまり固まってません。

検索してみるとプランクをはじめとした固める系トレーニングは山ほどヒットしますし、部活やサークル活動でも監督やコーチがよく勉強している方の場合プランクはよく取り入れられています。

ダイエットやフィジーク目的の場合はこれで十分なのですが、競技のパフォーマンスを上げたくて体幹トレーニングを取り入れている場合は固めるトレーニングだけだと効果が出ているのかよく分からないし、そもそもトレーニングの目的が不明確なのでモチベーションが続かなくてやめちゃうことが多いように思います。

競技のパフォーマンス向上のためには体幹筋の筋出力よりも筋ー神経伝達の活性の方が要求される場合が多い、つまり単純な筋力より上手な使い方が求められます。

上手な使い方ができるようになるためには紹介したような動的トレーニングはもちろん有効ですし、どういう動きが体幹の強さに繋がるのか?という明確なヴィジョンとある程度の論理的、学術的な理解が必要になるかと思います。

腕立て伏せのように決められた動作を繰り返すトレーニングでは無いのでそれなりの手間はかかりますが、その分ちゃんと理解できた時は効果が見込めるかと思います。
ぜひ挑戦してみてくださいね。

藤本 鎮也  吉田 一也  佐藤慎一郎  秋山 純和 体幹と理学療法 理学療法―臨床・研究・教育 20:7-14,2013.
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谷本 道哉 体幹トレーニングの流行の背景と効果に関する考察 理学療法―臨床・研究・教育 27:3-9,2020