体幹を鍛えなさい。
スポーツをやっている人や、身体の痛みで悩んでいる人はどこかで一度は言われたことがあるかと思います。
いろいろな本やWEBサイトを見てみると、体幹を鍛えると姿勢が良くなり、疲れづらく身体の痛みが少なくなり、基礎代謝が上がって痩せやすくなり、そのうえ軸がブレにくくなるからスポーツのパフォーマンスも上がるんだとか。
これだけ身体にいいことがあるのならば、鍛えるしかありません。
で、そもそも体幹て何?
体幹とは?
文献を見てみると、
体幹は,身体の四肢と頭部を除いた重量約48%を占める非常に大きな部位である。体幹には,中枢神経と臓器が存在し,運動については四肢間の運動連結やバランスに関して重要な役割を果たしている。
体幹と理学療法
こう定義されています。
両腕、両脚とあたまを落としたところが体幹ってことですね。
解剖学的に言うと、肩関節から先と股関節から先、首は残して頭蓋骨を除外した部分です。
で、鍛えるべき体幹の筋肉は、ローカル筋とグローバル筋の2種類に分類されます。
ローカル筋 | グローバル筋 |
腹横筋 内腹斜筋(胸腰筋膜付着繊維) 腰方形筋の内側繊維 多裂筋 胸最長筋の腰部 腰腸肋筋の腰部 棘間筋 | 腹直筋 外腹斜筋 内腹斜筋 腰方形筋の外側繊維 胸最長筋の胸部 腰腸肋筋の胸部 |
ローカル筋は胴体の深部にある筋肉。
体幹を支えるための筋肉です。
対してグローバル筋は体表近くにある筋肉で、胴体を曲げたり捻ったりと大きな動きを作る筋肉って感じです。
で、鍛えるといいと言われているのは深部のローカル筋。
体幹を支える筋肉、特に言われているのが腹横筋です。
なぜか。
体幹トレーニングが流行るきっかけになったのが、1990年代後半に発表された論文で、
「正常な状態では手足や身体の大きな動きより先に体幹のローカル筋の発火が起こる、中でも腹横筋が最も先行して筋活動を開始している」
ということが分かったからです。
このことから手で打つ、足を上げるなどの大きな動作を開始する前に、土台に当たる体幹を安定させることは日常生活での動作やスポーツ競技の動作において重要なのでは?という考え方が注目され、スポーツ大国アメリカのトレーナーからの発信によりプランクなどの腹横筋を発火させて体幹を固めるトレーニングが流行りました。
実際のトレーニング方法
実際にやってみましょう。
代表的なトレーニングを2つご紹介します。
ドローイン
体幹トレーニングの基本中の基本です。
腹横筋の発火を最も手軽に実感しやすいトレーニングだと思います。
やり方は、
- 上のように膝を曲げた状態で仰向けに寝る。
- ゆっくり呼吸する。鼻から吸い、鼻から出す。
- お腹を触ってみる。多分吸ったときにふくらみ、吐いた時にへこんでいるはず。稀に逆もいる。
- お腹がへこんだ状態をキープしたまま呼吸を続ける。お腹の代わりに胸を膨らませる意識でやるとやりやすいかも。
お腹凹みをキープしようととした時に力を入れた場所、それが腹横筋です。
これで腹横筋を使う感覚を覚えてください。
ドローインは英語でdraw in,「引き込む」と言う意味です。
余裕があったらお腹の中身を肋骨の中に引き込むイメージでやってみてください。
プランク
出た。
体幹トレーニングと言えばこれのイメージの方も多いんじゃないでしょうか。
やり方は、
- うつ伏せで寝る。
- 手か肘と膝を地面につけて体を浮かす。もっと効かせたかったら膝をつま先に変える。
- plankは板という意味。腹横筋を緊張させ、身体が板になったイメージで、上の絵のようにまっすぐにキープする。
ちゃんとやれていれば、ドローインより腹横筋にかかる負荷は高いです。
ただ、この形をキープするのには腹横筋が絶対必要ではありません。
他の筋肉で代償しても似たような形はできてしまいます。
プランクで腹横筋を鍛えるためには「腹横筋を使っている感覚」をしっかりと持つことが大切です。
このやり方はフロントプランク。
横向きだとサイドプランク、仰向けだとバックプランクになります。
これらも腹横筋を緊張させた状態で行います。
体幹を実感できるか
この2つのトレーニングは臨床での指導や学校の部活動などでも広く取り入れられていて、やったことがある人も多いと思います。
やってみてどうでした?
「効いた気がする!」と言う方も、「何だかよくわからん。」と言う方もいらっしゃると思います。
それは実際そう。
体幹トレーニングが注目されたこともあり、プランクやドローインをしてどう変わったか?の研究は数が多いのですが効果があった、無かった両方の報告があり、専門家でも「何だかよくわからん。」と言うのが正直なところです。
そもそも、体を支えるローカル筋のトレーニングは難しいです。
関節を動かすためのグローバル筋のトレーニングは肘を曲げる、上体を起こす等の大きな関節運動を伴います。
なので使っている、鍛えているという感覚を得やすいですが、ローカル筋は体幹を支える筋肉なのであまり関節は動きません。
動きを伴わない分、ローカル筋のトレーニングは自分で体幹を使っている感覚をしっかりと持つことが大切です。
しかしこれがなかなか難しい。
トレーニングや治療中にやり方を教えてもらい、何となく分かったような気がしても自宅に帰っていざやってみようと思うとよく分からなくなってた、なんてこともあるかと思います。
体幹の強さとは
「体幹 強い」とかで検索すると、よく見かける体幹の強さを測る代表的なテストとして、上の絵のように片脚立ちで何秒キープできるか?みたいなのがあります。
サイトによってやり方が違うのですが、大体おおまかにまとめると
- 手を腰に当て、足を肩幅に開いて立つ。
- 目線はまっすぐ前。または閉眼。
- どちらか片足を上げる。
- 軸足がずれたり、上げた足が地面についたら終了。そこまでのタイムを計測する。
こんな感じです。
20秒以上キープできたらあなたは体幹が強いだとか、何十秒以上キープできたら身体年齢が20歳代だとか色々なサイトに書かれていますがそれはいったん置いときましょう。
次に、軸脚の膝を苦しくない範囲で外側に向けて同じテストを試してみてください。
さっきよりも長時間キープできた方も、できなかった方もいるかと思います。
体幹の強さのテストのはずなのに、体幹とは関係のない脚の向きを変えただけで結果が変わってしまいました。
なんで??
理由は「片足を上げたことで生じる横方向への不安定さを安定させる筋肉が変わったから」です。
左右に開いた脚の片方を上げると、横方向に不安定になります。
人間の脚は前後の方向、つまり膝の向いている方向の動きに強いです。
股関節、膝関節、足関節の3つの大きな可動域を持つ関節があり、それらを動かす強力な筋肉が多数あるからです。
対して横方向に大きな可動域があるのは股関節だけ、動かす筋肉も前後の動きを作る筋肉に比べると数も少なく筋力も強くありません。
膝を横にむけた状態で片足立ちをすると、不安定が生じる方向と脚が構造的に強い方向が重なるので片足立ちを長時間キープしやすくなるかもしれません。
例外もあります。
身体の構造的には安定させやすくなるのですが、良くも悪くも身体の使い方、バランスの取り方が変わるので普段から片足立ちをよくする方は慣れた身体の使い方の方が安定させやすい場合もあります。
体幹ではないはずの脚の向きを変えただけで、体幹テストの結果が変わった。
ということはこのテストで測れる「体幹の強さ」とは、単純に「体幹の筋力の強さ」ではなさそうです。
ここまでのまとめ
気軽に体幹のことでも書くかァ、と思って書き始めたら予想よりも言語化が難しく、ものすごい長文になってしまいました。
情報が渋滞しそうなので次回に分けたいと思います。
まだ言いたいことの半分も言えてない。
ここまで一旦まとめます。
- 体幹を鍛えると色々と良いらしい。
- 体幹は両腕、両脚、頭を切り落とした部分。つまり胴体。
- 胴体の中でも腹横筋を鍛えると強いっぽい。
- 代表的な腹横筋トレーニングはドローイン、プランク。体幹を固めるトレーニング。
- 鍛えたけど効果があるか無いかは人による。
- いわゆる「体幹の強さ」は体幹の筋力の強さだけの話ではないかもしれない。
藤本 鎮也 吉田 一也 佐藤慎一郎 秋山 純和 体幹と理学療法 理学療法―臨床・研究・教育 20:7-14,2013.
Bergmark A. : Stability of the lumbar spine. A study in mechanical engineering. Acta Orthop Scand, 230 (suppl) : 20-24, 1989.
Hodges PW, Richardson CA.: Contraction of the abdominal muscles associated with movement of the lower limb. Phys Ther. 1997; 77: 132–142.
Hodges PW, Richardson CA.: Delayed postural contraction of transversus abdominis in low back pain associated with movement of the lower limb. J Spinal Disord. 1998; 11: 46–56.
谷本 道哉 体幹トレーニングの流行の背景と効果に関する考察 理学療法―臨床・研究・教育 27:3-9,2020