ジャンパー膝、ジャンパーズ・ニー、または膝蓋腱炎と言われる疾患は昔から接骨院では定番の疾患です。
基本的に負荷をかけないことが回復には必要とされてきましたが、近年は対応が変わってきています。
ジャンパー膝とは
ジャンパー膝は膝蓋骨の周囲で起こる腱の炎症です。
名前こそジャンパー膝ですが、膝の伸展機構への繰り返しの負荷が炎症の原因になるのでサッカーや陸上競技などのラン系の種目のアスリートでもよく発症します。
バスケットボールやバレーボールなどのジャンプ競技の場合は、地面を強く蹴って跳躍する動作と膝を曲げながら柔らかく着地する動作の両方で膝の伸展機構に負荷がかかるので発症リスクはより高いと言えるかと思います。
痛みの発生する箇所は膝蓋骨の下ですが、稀に膝蓋骨上部が炎症を起こすことも。
痛みの質は鋭い痛み、うずくような痛み、またはその両方が出現し、一般的に運動などの負荷で痛みが増します。
炎症が起こっている場所は神経の興奮が抑制されるため、脱力感を感じることもあります。
患部が極度に腫れたり、引っ掛かり感や関節のロックなどはジャンパー膝では一般的に起こりません。
痺れやチクチクするような痛みを感じる場合は神経障害の可能性があるため、別の障害も疑われるかもしれません。
ジャンパー膝のリスク要因
身体的なリスク
大腿の前面と後面の筋肉の柔軟性の低下はリスクになることが特定されています。
他にも足首の背屈の硬さ、ウェイトトレーニング量の増加、体重の増加、ジャンプ力の向上、男性の場合はウェストが83cm以上あること等がリスクである可能性があります。
環境的なリスク
過度なトレーニングと硬い床はリスク要因です。
屋内バレーボール選手のジャンパー膝の有病率は45%ですが、足元が柔らかい砂地のビーチバレー選手の場合は9%に過ぎないとか。
行動的なリスク
ジャンプや着地の動作が上手ではないこともリスク要因になります。
足首と膝、股関節を柔らかく使えず、どしん!と着地すると腱への負荷が上がり炎症を起こしやすくなります。
硬い着地になってしまう場合は膝や足首の可動域を拡げる必要があるかもしれません。
ジャンパー膝から回復するために
ジャンパー膝は基本的に保存療法が選択されます。
急性期は運動の強度を下げ患部に過度の負荷がかかることを避け、場合によってはサポーターやストラップなどで負荷を軽減してもいいです。
テーピングやマッサージ、鎮痛消炎剤、超音波治療なども、ジャンパー膝治療の定番です。
ジャンプ動作に伴って過度な骨盤の動きがみられる場合は、体幹の筋力強化で膝の痛みが無くなることもあります。
従来はジャンパー膝は負荷がかからないように安静にするか、運動量を減らすことが多かったのですが近年の研究である程度負荷をかけた方が競技への復帰が早まる可能性が高いことが分かってきました。
膝蓋腱に適度な張力をかけることにより、損傷の早期の回復、腱の強度に関係するコラーゲン線維の増加、患部の血流量の増加と痛みの低下が見込まれます。
腱に負荷をかけるために最も適切とされているのが片足デクラインスクワット(single-leg decline squat)です。
25度(17度でも効果は同じという説も)の傾斜板を使ってつま先が下がった状態で、片足立ちでゆっくりと膝を曲げていく遠心性トレーニングがジャンパー膝の治療に有効だとされています。
このスクワットは股関節と足首にかかる負荷を低下させ、膝関節にかかる負荷を40%程度増加させます。
膝を曲げる角度は15~30度くらい。
屈曲角度が60度を超えると膝蓋腱よりも大腿前面の筋肉に負荷がかかってしまうため深く曲げすぎない方が効果的です。
このトレーニングは炎症を起こしている膝蓋腱をいじめるトレーニングなので当然痛いです。
痛くてもやった方が結果的に早く回復するので、我慢できる程度の痛みで実施してください。
トレーニングの頻度はどのくらいがベストなのかはまだ研究段階でよく分かっていないのですが、15回を3セット、1日2回、12週間で研究されたものが多いようです。
まとめます。
- 傾斜板を使うか、かかとの下に物を置いてつま先が25度下がった状態にする
- 立った状態から膝が15~30度曲がるまでゆっくり腰を落とす
- これを1回として、15回を3セット、1日2回、12週間続ける
他に保存療法としては体外衝撃波療法が挙げられます。
重いものがぶつかった時などに発生する衝撃波を治療に応用したもので、有名なところでは体内の結石を砕くことにつかわれています。
近年この衝撃波が腱の炎症の治療に効果的であることが分かり、足底筋膜炎やアキレス腱炎、膝蓋腱炎の治療に使われるようになってきました。
日本ではまだ足底腱膜炎にしか保険適用されていませんが、ほかの疾患も研究が進んでいるのでいずれ膝蓋腱炎も対象になるかもしれません。
問題はまだ新しい技術なのでこの治療器を置いてある治療院が少ないことです。
うまいこと回復しない場合は外科的な手法に頼ることになると思います。
血小板を増殖させた自己血を注射したり腱を部分切除したりする治療法があるのですが、出来るだけ頼らずに回復させたいものです。
ジャンパー膝は回復までに長い時間がかかることが多いです。
現役のアスリートに発症しやすいため、復帰を焦って早く運動を再開してしまい、かえって長期の休養が必要になるケースもよくあります。
専門家と相談しながら計画的に治療に当たってください。
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