腹筋や背筋や太もも周りの筋肉が反り腰や猫背の原因となる、というのは知られていることですが、こういう状態に名前がついてたみたいです。
英語でLower Cross Syndrome(LCS)、日本語では下位交差症候群というそう。
身体には緊張して短縮しやすい筋肉グループと伸ばされて筋力低下しやすい筋肉グループがX状に交差した状態で存在し、その筋力のアンバランスが原因で機能障害が起こる、という説です。
この交差したアンバランスが骨盤の周囲で起こっているのが下位交差症候群です。
チェコのウラジミール・ジャンダ(Vladimir Janda)博士によって提唱されたもので、びっくりしたのがこれが発表されたのが1979年!
45年も前の発表なんですね。なんで今まで検索に引っかからなかったんだろ。
身体の使い方による筋力バランスの不均衡をロジカルに体系づけたもので、なかなか興味深い内容。
2020年代に入ってもこれに関する研究が多数発表されていたので調べてみました。
下位交差症候群とは
レントゲンを撮っても異常がみられず、ヘルニアや捻挫などの形態的な異常もないのに腰が痛い。
こういった原因のよく分からない腰痛はしばしばみられます。
この原因になっているかもしれないのが下位交差症候群。
脊柱起立筋などの体幹背面と腸腰筋や大腿四頭筋など大腿前面の筋肉が緊張して短縮しやすい筋肉グループ。
腹筋と殿筋が伸ばされて筋力低下しやすい筋肉グループ。
この緊張した筋肉グループと弱化した筋肉グループが上の図のようにクロスした配置になってしまった状態が下位交差症候群です。
この状態で表れるものとして、
- 関節機能傷害(特にL4-5、L5-S1、仙腸関節)
- その周囲の靭帯の緊張及び圧力の増大
- 関節痛(腰部、股関節、膝)
- 骨盤前傾及び腰椎前弯の増加
- 腰椎外側シフト、股関節の外旋および膝の過伸展などの特定の姿勢変化
などを挙げています。
さらに胸椎後弯の増加および頸椎前弯の増加など、体の他の部分の姿勢変化につながることもあるそう。
この下位交差症候群はさらにA型、B型の2つのサブタイプに分けることができるそうです。
A型:後方骨盤交差症候群
このタイプは脊柱起立筋群が強く働き過ぎている状態です。
伴って大腿前面の筋が短縮するため骨盤は前傾し、腰椎は前弯し股関節と膝が僅かに曲がった姿勢になります。
これに関連して胸郭は前方に移動し、腰椎前弯の辻褄合わせで胸椎は後弯します。
反り腰と猫背になるってことですね。
呼吸にも影響が出るそうで、息を吐く時間が短くなり、腹圧を上げ難くなるそうです。
B型:前方骨盤交差症候群
こちらは腹筋の弱化、短縮が原因のタイプです。
代償として腰椎の前弯減少、胸椎の後弯強化、頭部の前方移動が表れ、膝は過伸展位になります。
A型とB型の鑑別は姿勢変化と、前外側の腹壁の状態でするそうです。
上の図のような特徴的な姿勢変化と、前外側にあるのは腹横筋なので、その状態で判断する感じですね。
改善方法
とある研究では、11歳から15歳の学童369人を対象に下位交差症候群の検査を実施したそうです。
学童は長時間座っているため、股関節屈筋の緊張と臀筋の伸長を引き起こします。これが腹筋の衰弱と背筋の緊張に進み、下部交差症候群になりやすい傾向にあります。
結果は369人中76人、21%の学童が下位交差症候群でした。
下位交差症候群を発症した学童達を対象に、2週間にわたり週5回のエクササイズを実施しました。腸腰筋、大腿直筋、脊柱起立筋のストレッチと腹部と臀部の筋トレを行ったところ、統計的に優位な姿勢の改善がみられたそうです。
このことから腸腰筋、大腿直筋、脊柱起立筋などの緊張して短縮しやすい筋肉グループのストレッチと腹部と臀部などの筋力低下しやすい筋肉グループの強化は下位交差症候群の改善に有効といえそうです。
文献の中では他にプランク、腰椎MET、ヨガ、ピラティスなども有効とされています。
他に有効とされていたのが「ブルーガーのエクササイズ」。これ知らなかったです。
手順は、
- 椅子のできるだけ前の端に座る。背もたれは使わない。
- 爪先を自然な感じで開く。
- 背中を反らし骨盤を前傾させる。体重は足に移る。
- 胸を上に向けて開く。
- 手のひらを上に向け、腕を外側に開く。
上の絵の右側の姿勢です。
このエクササイズを座っている時間20分につき10秒間行います。
座っていて立ち上がる時や歩き出す動きに組み込むと、自然と姿勢の改善につながるそうです。
最後に
下位交差症候群は骨盤周りの筋肉のアンバランスが原因ですが、脚の疾患の膝蓋骨脱臼や鵞足炎、シンスプリントなどの症状が表れることもあるそうです。
今回は下位交差症候群について書きましたが下位があれば当然上位もあって、首周りの筋力のアンバランスが原因になる症状もあるそう。
他にも仙腸関節あたりの痛みの原因が、下位交差症候群の影響で陰部神経が圧迫されてるからかもしれないとか、色々な研究が進められているようなので、定期的に情報を集めていきたいと思います。
Burile G, Phansopkar P, Deshmukh NS. Prevalence of Lower Cross Syndrome in Housemaids. Cureus. 2024 Apr 1;16(4):e57425. doi: 10.7759/cureus.57425. PMID: 38699138; PMCID: PMC11063971.
Kale, Shrikrushna Shripad; Gijare, Sayali. Prevalence of Lower Crossed Syndrome in School Going Children of Age 11 To 15 Years. Indian Journal of Physiotherapy & Occupational Therapy, 2019, Vol 13, Issue 2, p176
Shrikrushna S. Kale1, Amrutkuvar Jadhav2 , Trupti Yadav3 , Khushboo Bathia4. Effect of Stretching and Strengthening Exercises (Janda’s Approach) in School Going Children with Lower Crossed Syndrome Vol. 11 No. 5 (2020): Indian Journal of Public Health Research & Development