少し前にInstagramで熱中症になってしまった場合の対処法をご紹介しましたが、インスタではどうしても見やすさ重視になってしまうのでこちらでもう少し詳しくお話したいと思います。
熱中症のメカニズムや実際になってしまった場合の対処法など、ますます暑くなる今の時期にぜひ知っておいて欲しいです。
命に関わる場合もあるので。
熱中症ってどんな状態?
熱中症とは、高温多湿な環境に長時間いることで、体温調節機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態を指します。
厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/#:~:text=%E7%86%B1%E4%B8%AD%E7%97%87%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E9%AB%98%E6%B8%A9,%E6%AD%BB%E4%BA%A1%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%82%82%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
屋外だけでなく室内で何もしていないときでも発症し、 救急搬送されたり、場合によっては死亡することもあります。
熱中症は厚労省で上記のように定義されています。
そもそもなぜ体温が上がりすぎるとダメなのか?ですが、人体を構成する細胞は約37°で最も効率よく働き、42°以上の温度にさらされるとタンパク質が熱変性を起こし細胞死に至ります。
なので人間の身体は効率よく生理機能を保つために中枢の温度を一定にしようとする性質があります。
中枢の体温が上がりすぎないように、外気に触れる面積の多い手脚の血流量を増やしたり、汗が蒸発するときに気化熱で体温を散らしたりするのですが、外気温が高すぎたり湿度が高すぎて汗が蒸発しにくい環境だとうまく体熱を逃がすことができず、中枢の体温が上がりすぎてしまい生理機能を保つことができなくなります。
これが熱中症です。
症状は軽いものだと手足のしびれやめまい、筋肉がつる、気分が悪くなるなど。
もう少し悪くなると頭痛、倦怠感、吐き気。
重度だと意識障害やけいれんなどがみられます。
症状の表れ方にも種類があり、暑い環境に置かれて徐々に症状が悪くなっていくもの(passive heat stroke)と、運動中などに急激に重度の症状が表れる労作性熱中症(Exertional Heat Stroke)に分けられます。
熱中症になってしまったら
徐々に症状が表れる場合は自分でも身体の異常に気づきやすく、対処が手遅れになりにくいですが問題は症状が急激に表れる労作性熱中症です。
人間の体熱を生むのは主に肝臓と筋肉です。
筋肉を激しく使う運動中は体温が上がりやすい上に興奮状態で身体の異常に気付きにくく、さっきまで走り回ってたのにいきなり気を失って倒れる、なんてことも起こり得ます。
早急に対処しなければならないのですが、そんな時に役立つのがInstagramでご紹介した方法です。
ファルマス・モデル(Falmouth Model)と呼ばれています。
アメリカのマサチューセッツ州のファルマスという町で毎年8月半ばにFalmouth Road Raceというイベントが行われているそうです。
このレースは1973年に創設され、オリンピック選手などの有名選手も参加する伝統あるイベントなのですが、コースの起伏が激しかったり、11.3kmの中距離ハイペースレースだったり時期が悪いしで参加者の熱中症発症率が他のレースの10倍もあるそうです。
この過酷なレースの医療チームの中心を務めるのがコネチカット大学のコーリー・ストリンガー研究所(Korey Stringer Institute)。
このチームが実施している対策がファルマス・モデルです。
驚くことに今まで1人の死者も出していないそうです。
かなり厳格な診断、治療システムなので実施のハードルは高いですが手順をご紹介します。
1,直腸温度が40°以上であることを確認する
まずは「この人は熱中症である」と判断する必要があります。
暑い環境で運動して倒れたから熱中症と判断することはできません。
レース前で朝ごはんを抜いたせいで低血糖になっているかもしれませんし、持病があるのかもしれません。
唯一判断できる材料が「直腸温度が40°以上あること」です。
体温を計る箇所は耳、口、腋などが定番ですがこれらは熱中症の発症と関連がみられませんでした。
直腸温度は高いままなのに口では下がっていたり、その逆もあったりしたので、いまのところ熱中症の判断には直腸温度を計るしかありません。
2,速やかに体温を39°以下に下げる
熱中症の生存率は「どのくらいの時間、体温が40°以上だったか」で決まります。
15分を過ぎると生存率が20%程度、大きく下がってしまいます。
熱中症であることが確定してから5分以内に処置開始、15分以内に39°以下まで下げることが目標とされています。
3,氷入りの水に身体全体を浸す
15分以内に39°以下に体温を下げることが大切なのですが、こちらのグラフを見ていただくと解るとおり目標を達成できる冷却方法が氷水を使った浸水療法しかありません。
グラフのIdealが10分以内に39°以下に達するラインです。
よくみる首、腋、鼠径部をアイスパックで冷やす方法は体温を42°から39°まで下げるのに110分かかるので労作性熱中症の治療には向いていません。
もし緊急で氷水が無い環境で労作性熱中症の治療をしなければならないとしたら、全身をびちゃびちゃに濡らして風を送り続けてください。
氷水に沈められない場合、冷却効率が一番高いです。
4,体温が39°まで下がったら救急搬送する
熱中症の治療は体温を下げることが最優先なので救急車が到着しても冷却を続けてください。
39°まで下がったら搬送して大丈夫。
冷却をやめても体温が下がり続ける場合があり、低体温症を引き起こすこともあるので、39°になったら冷却をやめた方が良いそうです。
実際の対策をどうするか
ファルマス・モデルはとても優れた治療法ですが、コストが高いので使いどころが限られる対策です。
例えば学校の部活やクラブチームで「身体がすっぽり入る容器、大量の氷、直腸体温計を何セットか」、そしてルールを理解している人を練習のたびに用意するのはなかなか難しい。
全国区の部活を複数抱えているスポーツ強豪校の保健室ならかろうじて用意できるかもしれない。
一番活きるのは甲子園などの大きな大会です。
というより、夏季の野外での運動イベントを開催するにあたって、主催者や医療チームがファルマス・モデルを導入することはもはや義務と言っても良いかと。
近年、甲子園では熱中症のリスクから試合時間の変更やクールタイムの導入、大型扇風機の設置など熱中症の予防措置を工夫しているようですが、死亡リスクを激減させることが分かっている方法を採用しない理由がありません。
普通の部活で対策するなら、ファルマス・ルールは難しいのでやはり予防が中心になります。
少しの異常でも訴えやすい環境をつくり、できるだけこまめに涼しい場所で休息をとりながら練習する。
この対策の欠点は熱中症の判断が選手個人の体感に完全に頼っていることです。
本人が夢中になり過ぎて倒れるまで気が付かなかった、もあり得るので休憩のコントロールは必要になるかと思います。
暑い中での運動は避けるべきですが、どうしてもしなければならない場合もあります。
正しい知識を持っての予防が大切です。どうか心に留め置きください。
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