オスグッドやテニス肘の原因は使いすぎだけじゃないかもしれない。

オスグッド・シュラッター病やテニス肘、ゴルフ肘や野球肘、ジャンパーズ・ニー。

スポーツ活動や仕事が原因と思われる手脚の関節付近が痛くなったり曲げ難くなったりする症状は臨床でよくみられます。

好発部位は

動きの大きい手脚の関節を動かす長い筋肉が骨につながる場所でよく起こります。

原因は、スポーツや日常生活に伴う高負荷の反復運動、つまりは使いすぎることによって筋肉の中でも柔軟性の低い腱や、付着部の骨に小さなダメージが蓄積されて痛みや機能障害として表れた状態です。

今まで私もこのように単純に使いすぎが原因だと思ってましたが、テニス肘に関して調べていたら使いすぎ以外にも原因があるかもしれない、という研究を見つけました。

Structural and pathological changes in the enthesis are influenced by the muscle contraction type during exercise - PubMed
Mechanical stress is involved in the onset of sports-related enthesopathy. Although the amount of exercise undertaken is...
https://research-er.jp/articles/view/105947?utm

上が英語、下が日本語です。
なぜか403エラー吐いてますがクリックしたらページに跳べます。

実際の臨床の現場では、そこまで腕を酷使してなさそうなのにテニス肘が発症してたり、運動を控えてオスグッドが完治したはずなのに運動を再開したら少し動いただけでまた痛くなってしまったりということがあります。

こういう筋腱付着部の炎症は使いすぎが原因と考えられていますが、短期間の負荷でも発症するということは使いすぎ以外にも何か発症原因があるかもしれません。
この研究では運動量以外に筋肉の収縮タイプの違いで患部にかかるストレスがどう変化するのか比較しています。

筋肉の収縮タイプ

筋肉の収縮タイプは大きく分けて3つあります。
求心性収縮、等尺性収縮、遠心性収縮です。

腕相撲をイメージすると分かりやすいのですが、自分が勝っていて相手の腕を倒しつつある状態が求心性収縮、力が拮抗していてどちらにも腕が倒れていない状態が等尺性収縮、相手の力が強くじわじわ負けつつある状態が遠心性収縮です。
求心性収縮は筋肉の長さが縮む収縮、等尺性収縮は筋肉の長さが変わらない収縮、遠心性収縮は筋肉が伸びる収縮とも言い換えられます。

筋肉にかかる負荷は等尺性収縮<求心性収縮<遠心性収縮の順番で高くなります。

で、この研究ではマウスに環境を変えてトレッドミル運動をさせ、普通に生活群、オーバーユース群、ミスユース(遠心性収縮)群、オーバーユース+ミスユース群の4群に分けて筋肉や筋腱付着部の状態を比較したそうです。
結果は、オーバーユース群では炎症性の変化はみられませんでしたが、ミスユース群には炎症性の変化が、オーバーユース+ミスユース群にはさらに強い炎症性の変化がみられたそうです。

結果からわかること

筋腱付着部の炎症の原因は長時間使うことではなく遠心性収縮かもね、って研究です。
それならば短期間の負荷でも炎症が起こってしまうことの説明がつきます。
遠心性収縮を避けるような使い方をしたら炎症が起こらないかもしれません。

でもねー、難しいのは遠心性収縮を避ける使い方が実際のスポーツや日常生活の中で実行できるかです。
論文の中では遠心性収縮をミスユース、間違った使い方としています。
が、オスグッドやジャンパーズ・ニーの原因となるジャンプ動作を例に出すと地面を蹴ってジャンプする動作が求心性収縮膝を曲げてショックを吸収しながら着地する動作が遠心性収縮です。
跳びっぱなしで着地しないことはできません。
炎症リスク的に間違った使い方でも、実際に運動するうえで避けることは難しいかも。

極端に言えば、膝を曲げずにどすん!と着地したら筋腱付着部にかかるストレスは軽減されるかもしれませんが、その分足部のアーチやら膝の関節軟骨や半月板、股関節、腰椎らへんにストレスが転換されそう。
遠心性収縮を避ける動きは他のところに負荷をかけてしまうかも知れません。
筋腱付着部の炎症リスクと実際の動作とのすり合わせはよく考える必要はありそうです。

とはいえ使いすぎを改めるより、使い方を改めろ!ってのは面白いですね。
高負荷の求心性収縮(オーバーユース群)よりも低負荷の遠心性収縮(ミスユース群)の方が発症リスクが高いというのも興味深い。
今は筋腱部の炎症が起きてしまっている時は運動量を制限しますが、遠心性の収縮になるような運動を避けられれば運動量を制限しなくても良い可能性があります。
テーピングを貼るにしても「遠心性収縮を制限する、もしくはサポートする」ことを意識するとまた色々なパターンが考えられそうです。

最後に

この研究はこういう実験をしたらこんな結果になったよ、という報告で、こういう反応が人間の身体で本当に起こっているのか、これが実際の筋腱付着部の炎症の治療にどう効果を及ぼすかはさらなる研究が必要です。

まだよく分かっていないことではありますが、こういう今までの常識が変わるかもしれない研究はワクワクしますね。

埼玉大学の研究なので、日本語原文です。
上にリンクも貼ってますので、ご興味あればご一読ください。
短めなので読みやすいと思います。