「反り腰の傾向にありますねー」
と、腰痛で受診された患者さんに伝えるとすごく納得されます。
あぁ、じゃあ仕方ないね。みたいな。
仕方なく無いです。
反り腰は普段の身体の使い方が原因でなっているものがほとんど。
緊張しすぎている筋肉を緩めて、身体の使い方を修正してあげれば改善される可能性は十分にあります。
反り腰とは
反り腰とは、一言で言うと”骨盤の前傾が強い状態”です。
腰椎の前カーブが強くなったりは骨盤の前傾に付随して起こります。
骨盤の前後の傾斜角は、恥骨結合と垂直関係に位置した上前腸骨棘(ASIS)と上後腸骨棘(PSIS)を結んだ線と、水平線が成す角度で計測します。
16°以上 | 前傾 |
7°~15° | 正常 |
6°以下 | 後傾 |
という分類になります。
人によってはPSISがASISよりも下がっていて角度がマイナスになることもあります。
反り腰チェック
気になる!測ってみたい!という方。やってみましょう。誰かに手伝ってもらえれば簡単に測れます。
そう。iPhoneならね。
まずは測る位置を確認しましょう。
脇腹に手を当て、下におろしていくと骨盤にぶつかると思います。
その骨をすすっと前にたどっていった先の骨の出っ張りがASISです。
同じように後ろにたどっていくとぶつかる骨のごりっとしたとこ。それがPSISです。
ASISもPSISも骨盤周りの計測や触診をするときランドマークにされる、とても見つけやすい部位です。
なんか周りより出っ張ってんなー、ってとこでだいたい合ってます。
そこを覚えておいてください。見失いそうならシールやテープなどで目印をつけてあげてもいいかもしれません。
では測ってみましょう。
- ふとももと骨盤の前側を壁や机など垂直なものにぺったりつけて立つ。
- 平らな板か硬い本などを用意し、横から見てASISとPSISを通る角度にする。
- iPhoneの標準アプリ、”計測”を起動し、下の”水準器”をタップし板の上に置き、数字を確認する。
得られた数字が骨盤の前後傾斜角です。
この計測アプリ、他の機能として画面に移った物の距離を測れる機能もあります。
cm単位までしか測れないしあまり正確ではないのですが、簡易的な下肢長やO脚矯正前後の両膝間の距離などの計測に便利です。
画像として残しやすいし。神。
自分の身体のいまの状態を知ることはこれから改善していくに当たってとても重要なことです。
この角度のように数値化、定量化できることは特に大切です。
反り腰の原因
反り腰は骨格の歪みですが、人間の骨格ははまっている関節がごりっとずれて、ぱこっと嵌めたら元通り、という歪み方はしません。むしろそれは脱臼です。
骨には靭帯や腱、筋肉がくっついていて、それらが緊張することで骨が引っ張られ、反り腰などの骨格の歪みとして表れます。
反り腰の場合は、腰から背中にかけての筋肉が骨盤の後側を上に引き上げ、大腿の前側の筋肉が骨盤前方を下に引き下げ、その結果骨盤が前に傾き反り腰になります。
この画像にはありませんが、腰椎から大腿骨まで走る腸腰筋も緊張すると骨盤を前傾させ、反り腰の原因となります。
反り腰になりやすい要因として考えられるものは、まずはこの腰から背中の筋肉や大腿前面の筋肉の緊張が挙げられます。
腰の筋肉に負担がかかる腰を屈める姿勢や、大腿前面の筋肉に負荷がかかる、スクワットのように腰を落とした姿勢を仕事や趣味などで多くとっている方は反り腰になりやすい、と言えるかと思います。
あと考えられるのは、肥満や妊娠など。
人間は横から見た時に、重心が足の裏の範囲よりも前後にずれるとその場で立っていられません。
身体の前側が重くなると重心を後側に移さないとバランスがとれないため、反り腰になります。
反り腰の治し方
反り腰を治すためには、まず腰から背中にかけての筋肉と、大腿前面の反り腰を作っている筋肉の緊張をとることが大切です。
大腿前面の筋肉は、正座したまま後ろに倒れるストレッチで十分に伸ばせるかと思います。
このストレッチは筋肉の緊張を緩めることが目的なのでゆっくりと時間をかけて伸ばします。
痛いのをガマンする必要はありませんがしっかりと筋肉にテンションをかけて、痛気持ちいいくらいのところで呼吸を止めずに30秒程度キープしてあげましょう。
腰や背中のストレッチは誰かに手伝ってもらえたらその方が楽に伸ばせます。
1人でストレッチをする場合はこちらが参考になるかもしれません。
さらに改善するには
骨盤を前傾させ、反り腰の原因になる筋肉を緩めました。
併せて、その反対の働きをする筋肉のエクササイズを行うとさらに効果的です。
骨盤の前方を引き上げ、後方を引き下げてあげると骨盤は正常な角度に戻ります。
エクササイズの目標の筋肉は骨盤の前方を引き上げる腹直筋、後方を引き下げる大殿筋、大腿後面の筋肉です。
反り腰で重い腰痛持ちの男性がエクササイズを行い、反り腰を改善できるか観察した研究があります。
それによると、腹直筋を強化するクランチ(肩甲骨が床から離れるくらいの腹筋運動)、臀筋と大腿後面の筋肉を強化するワンレッグヒップリフト(下の画像のエクササイズを片足を天井に伸ばした状態でやる運動)、大腿後面の筋肉を強化するレッグカール(うつぶせに寝た状態で膝を曲げる運動)。
これらのエクササイズを各20回を1日3セット、2週間実行した結果、左右それぞれ19°と20°だった骨盤前傾角が両方14°まで減少し、本人が感じている痛みを数値化したVASというスケールが7から3まで減少したそうです。
上記のエクササイズですが、研究の中ではレッグカールはゴムバンドを使って抵抗をかけながら行っていました。丁度いい長さのゴムバンドはなかなか無いので、その場合はレッグカールは無しにして、代わりにヒップリフトを多めにやってあげれば良いと思います。
ヒップリフトも片足だとかなりキツいです。
この運動は背中を真っ直ぐにしたままお尻を持ち上げることが大切なので、無理そうなら画像のように両足をついたままでも良いです。
普段の筋肉の使い方をリセットするためのエクササイズなので、身体が新しい使い方を覚えるまで続けることが1番大切です。
頑張りすぎてキツくて続かないのが1番もったいないので、これなら毎日やっても良いかな、くらいの強度でやってあげてください。
反り腰に限らずですが、いまの身体の状態やストレッチやエクササイズの目的、行う意味を理解することは症状の改善のために1番大切だと考えています。
エクササイズの目的、例えば腹筋をする時に、
俺の! 腹筋が! 骨盤前方を引き上げ! 反り腰治る!
と意識してあげるとなお良いです。
余裕があったら試してみてくださいね。
参考文献
Won-gyu Yoo:Effect of the Individual Strengthening Exercises for Posterior Pelvic Tilt Muscles on Back Pain, Pelvic Angle, and Lumbar ROM of a LBP Patient with Excessive Lordosis: A Case Study:J. Phys. Ther. Sci.26: 319–320, 2014
平元奈津子:妊婦に対する理学療法.理学療法学,2014.
季 翔,正木 光裕,梅垣 雄心,中村 雅俊,小林 拓也,山内 大士,建内 宏重,池添 冬芽,市橋 則明:脊柱起立筋と多裂筋の効果的なストレッチングの検討 せん断波エラストグラフィー機能による弾性率を用いた検討.第49 回日本理学療法学術大会