足を組むことは身体に悪い。
いつの頃からか足を組むことは身体に悪いというイメージが定着していて、あれにも悪い、これにも悪いと様々な健康への悪影響があると示唆されています。
調べてみるとよく上げられている、あれやこれやの悪影響を書き出してみます。
- 身体が歪む
- 腰痛の原因になる
- 肩こりの原因にもなる
- 身体が冷える
- 足の筋肉が張る
- お腹やふとももがたるむ
- 股関節の動きが悪くなり腰や膝を痛める
- お尻が垂れる
- 脚が太くなる
- 血圧が上がる
- 心理的な原因の場合もある
身体に悪すぎてもはやカオス。
肩こり、腰痛などの健康面、太くなったり弛んだりの美容面のみならず血圧やら心理的やら全面的に悪いとボロカスに叩かれています。
本当に?たかだか足組むくらいで??
色々と悪いことが書かれていますが、こういうの書いてあるサイトってこの情報をどこから持ってきたのか、の一次情報を記載していないことがほとんど。
気になったので足を組むことに関するエビデンスを探してみました。
足を組むことに関してのエビデンス
調べた限り、足を組むことに関しての研究の初出は1989年。
立ったり寝たり座ったり、色々な姿勢のときに骨盤や腰椎を安定させるために腹斜筋がどのくらい働いているか調べた研究です。
これによると寝ているより座っている、座っているより立っている方が腹斜筋は活発に活動し、座っているときに足を組むと腹斜筋の活動は低下するそうです。
で、悪しき評判の原因になっているかもしれないのがこの研究。
足を組んで座る人にはどんな姿勢の変化があるのか?って研究です。
椅子に座る時に足を組んでいる時間が、1日当り0時間、1時間、2時間、3時間以上の4グループに分けて姿勢の変化を比較しよう、と。
姿勢の変化は、人間を横から見た時に外耳道、肩峰、膝関節、踵立方関節の4つのランドマークが重心を通る垂直線からどのくらい離れているか、の前後方向の姿勢変化と、人間を前から見たときに左右の肩の傾斜と骨盤の左右の傾斜という左右方向の姿勢変化を計測します。
左右の傾斜は、両方の肩峰と、脚の付け根のぽこっと出っ張ってる骨(上前腸骨棘,ASIS)をランドマークとして計測したそう。
結果は、前後方向の姿勢変化は3時間以上足を組むグループで外耳道の数値が最大、つまり頭が前傾姿勢になる傾向は見られました。
が、全体的には足を組むことが原因での猫背やストレートネックなどの明確な姿勢の変化は見られませんでした。
左右方向の姿勢変化では、肩においては足組みが3時間以上グループと0時間、1時間グループの間に有意差が、骨盤においては3時間以上グループと0~2時間の全てのグループとの間に有意差がみられたとのこと。
1日に3時間以上足を組んでいると肩の左右の高さに差が出たり、左右の脚の長さが変わる、もしくは骨盤の傾きの差がでるかもしれないって結果です。
左右の脚どちらを上にして足を組んだかの差異も併せて調べたそうですが左右で違いはなかったそう。
この論文では研究結果を補強する形で他の論文を引用し、足を組むことによって中殿筋が引き伸ばされ筋力が低下し、骨盤の横傾斜の原因になる、足を組むと股関節の屈曲不足を腰椎で代償するため腰椎が屈曲する、骨盤の左右の傾斜が側弯症の原因になる可能性がある、足を組むことで腰椎が屈曲し頭部が前方に移動する、つまりはストレートネックの原因になる可能性があると述べています。
が、ちょっとセンセーショナルに書きすぎな印象です。
例えばLumbar flexion is greater when sitting with the legs crossed.(足を組んで座ると腰椎の屈曲が大きくなる)の根拠として引用しているのは股関節屈曲制限がある人とない人が足を組んでデスクワークをしている時の腰椎の屈曲と筋活動量を比較する研究なのですが、その中ではThese findings suggest that limited hip flexion leads to greater lumbar flexion during cross-legged sitting.(これらの所見は、股関節の屈曲が制限されると、足を組んで座った際に腰椎の屈曲が大きくなることを示唆している)と述べています。
股関節屈曲制限があるという前提を外すのはちょっと無理筋かも。
「足を組むことは身体に悪い」が前提になってしまってる印象です。
足を組むと血圧が上がることに関しての論文も見つけました。
この研究では高血圧患者と、健康な人をランダムに足を平らな床に置いた状態と足を組んだ状態で血圧を測定し評価しています。
結果は、高血圧患者は上と下の血圧両方が、健康な人は上の血圧だけが上昇したそうです。
ただし、これは足を組みながら血圧を計った場合のお話。
血圧を計るときに足を組まない方が良さそうですが、足を組むのは血圧上昇のリスクがある!というわけではありません。
なぜ足を組んでしまうのか
足を組んでしまう理由は様々かと思いますが、第一にやはり楽だからかと思います。
身体を支える方法は大きく分けて骨の硬さで支える骨性支持と、筋力で支える筋性支持の2種類があります。
足を組んだ状態は2本の脚を組み合わせることによって骨性支持を強固にし、筋力を使わなくても身体を支えることを可能にしています。
調べていて面白かったのが、内腹斜筋、腹横筋、梨状筋、骨盤底筋などの横向きの骨盤筋群は仙骨をhipbonesの間で圧迫することで仙腸関節の安定に寄与しているのではないか?という研究です。
この研究では防腐処理をした実際の骨盤を使い立った状態、座った状態、足を組んだ状態をシミュレートし、梨状筋が伸長する量と、梨状筋の牽引で引き起こされる骨盤と腸腰靭帯の変形を計測したそう。
結果は足を組んだ状態では普通に座っている時に比して11.7%、立っている時に比して21.4%伸長し、骨盤が内側に変形し恥骨結合と仙腸関節の背側の圧迫が確認できたそうです。
ストレッチしているところを触ってみると分かりやすいかと思いますが、筋肉は伸ばすと硬くなります。
伸ばして硬くなった筋肉で関節を圧迫して姿勢を安定させているという発想ですね。
足を組むと腹斜筋の筋活動が低下することは先に述べましたが、これは足を組むことによって伸長した梨状筋が骨盤と大腿骨の間に受動的緊張を生み出し、腹斜筋の筋活動を代償しているためと筆者は考えています。
おもろ。
人間は生理的に省エネです。
同じ行動結果を生み出すならより消費カロリーの少ない行動を選択します。
足を組むことで腹斜筋を緊張させずに姿勢を維持できるのならば、足を組んでしまうのも生理的に仕方のないことなのかもしれません。
足を組むことは身体に悪いのか?
さて、ここまでのエビデンスを踏まえて最初のリストを考察してみましょう。
足を組むことは身体に悪いんでしょうか。
- 身体が歪む
- 腰痛の原因になる
- 肩こりの原因にもなる
- 身体が冷える
- 足の筋肉が張る
- お腹やふとももがたるむ
- 股関節の動きが悪くなり腰や膝を痛める
- お尻が垂れる
- 脚が太くなる
- 血圧が上がる
- 心理的な原因の場合もある
冷える、たるむ、垂れる、太くなる系は腹斜筋の筋活動の低下からですかね。
足を組むことによって筋活動量の低下は確認されているのでそういうこともあるかもしれません。
血圧が上がるのは先に述べたように足を組んでいる間だけ限定的に上がることは確認されています。
心理的な影響は、足を組む姿勢は心理学ではクローズ姿勢と言われているらしく防御や無関心を表すそうです。
心理状態を推測する指標にはなるかもしれませんが、防御や無関心は身体に悪くはないです。
肩こりや腰痛は、3時間以上足を組むと肩や骨盤が左右に傾斜することは確認されているので原因になる可能性はありそうです。
股関節の動きが悪くなる、足の筋肉が張るはよく分からないです。
長時間座っていること自体が原因で脚の循環不良が起こり、筋肉が張ったりむくんだり可動域がせまくなったりする可能性はあると思いますが、それは足を組まなくても起こること。
足組みが原因でそれが悪化するのかの研究は調べた限り見つかりませんでした。
身体がゆがむのはどうなんでしょうか。
ストレートネックや反り腰などの前後の姿勢変化は無いことが確認されていますが肩、骨盤の左右の姿勢変化は認められているのでまあ歪むといえば歪むのかもしれません。
が、左右の姿勢変化では代表的な側弯症との関連は確認されていません。
側弯症は、身体を前後方向から見た時に最も傾いている背骨同士の成す角度(コブ角)が10°以上のものと明確に定義されています。
どうせ調べるならコブ角も調べてみて欲しいところではありますが、上記の研究では脊柱側弯症の計測は行っていないと論文内で述べています。
足を組むことによって姿勢が変化する可能性はありますが、医学的に異常といえる姿勢の変化の原因になるかは今のところ何とも言えません。
最後に
私は足を組むことが特別悪いことだとは思っていません。
左右非対称の姿勢は身体に悪いと言われがちですが、もともと人間は心臓は左が重かったり、肝臓は右側が重かったりと構造的に左右非対称です。
利き手、利き足、利き目などの関係で左右の手足を均等に使うことは事実上不可能ですし、職場や学校、職務内容など本人にどうしようもない環境で左右不均等な身体の使い方を強いられることもあるかもしれません。
たかだか足を組むことをやめたところで、身体の使い方の左右差は無くなりません。
足を組むことは「大腿の上にもう片足をのせた状態」と定義されています。
なのでこういう座り方も足を組んで座っている状態です。
↓仏教でいう結跏趺坐、ヨガでいう蓮華坐。
↓ヨガのGomukhasanaという姿勢。
両方とも足を組んで座っていますが、これを見て身体に悪いとか、身体が歪むという印象を持たれる方は少ないと思います。
両方とも腹筋をしっかり使って腹圧をかけているので姿勢が崩れていないですよね。
足を組むと腹筋の筋活動が低下するのは腹筋を使わなくても姿勢を維持しやすくなるだけなので、腹筋が使えなくなるわけではありません。
足を組むことは悪いからしない、よりも足を組んでも体幹の安定した座り方を心がけたり、長時間動かないことが身体の不調の原因になるので1時間に1回は立って身体を伸ばすようにするなどの習慣を身に着けた方が身体の不調に対応しやすいと思います。
身体に悪いことをしないのも大切ですが、身体に良いことを積極的に取り入れていけるといいですね。
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